男の優しさ、ファイトソング春樹くんのスタートライン
「ファイトソング」第6話で、春樹くんが花枝ちゃんにスマホを通して歌ってあげてましたね。
これ、私にはすごく「男の優しさ」を感じさせてくれました。
普通ならバンドをバックに歌うプロの歌手が、演奏も何もなしにスマホに向かって歌ってるっていうのは、ちょっと不思議な光景ですよね。
花枝ちゃんは腫瘍の手術まで、もう3週間を切ってて、もしかしたら耳が聴こえるのはあと3週間だけかもしれないという状況です。
そして、このことは花枝ちゃんはまだ他の誰にも話していません。
お医者さんからは
「今のうちに(耳が聴こえるうちに)
いい思い出をつくりなさい」
っていうアドバイスもされてしまってました。
早くいい思い出を作っておきたい、そんな思いから、一緒に恋に取り組んでいる春樹くんと電話をしている時に、
「歌が聞きたい」
と頼んでしまったんですね。
ふると春樹くん
「あっ 今? 電話で?」
なんて結構驚いてましたが、すぐに歌ってあげようとして、何やら準備をし始めます。
でも花枝ちゃんが
「声だけがいい」
って言ったので、春樹くんの方は
「えっ」
っと一瞬驚きながらも、理由は聞かずにその場で、電話に向かって「スタートライン」を歌ってあげました。
春樹くんはプロの歌手なんです。
プロの歌手が突然バックコーラスや演奏もなしで歌うのは勇気が要る、っていう話を聞いたことがありますが、春樹くんもちょっと驚いてたようですね。
でも、その場で花枝ちゃんの望み通りに歌ってあげてました。
春樹くんも花枝ちゃんとの恋への取り組みの中で、花枝ちゃんの言葉
思い出
2か月だけ
みたいな言葉はかなり引っかかっていて
何故だろう?
っていう疑問があって、ちょっとだけ質問もしかけたんですが、花枝ちゃんに
理由は言わないし
聞かないでください
って言われたので聞かずにいたところでした。
なので、声だけで歌って欲しいと頼まれた時、
バックの演奏やコーラスが
あった方がうまく歌えるよ
どうして電話で聴きたいの?
何があったの、
会って話そうか?
・・・
みたいな、いろんなことが春樹くんの頭の中を駆け巡ったんじゃないかと思います。
でも結局は、何も言わずに花枝ちゃんの言葉どおり、そのまま電話に向かって歌ってあげてました。
私はこのことの中に
男の優しさ
を感じてしまいました。
何はともあれ、相手(花枝ちゃん)の気持ちを優先しようとする、理詰めで考える男の優しさですね。
対して、相手を守ってあげようという強い思いからの優しさが女の優しさのように感じます。
言うなれば、
男;理性的な優しさ
女:本能的な優しさ
の違いっていうものを感じさせてくれました。
以前、柳美里さんが書いた本の中で言っていたことですが、
柳美里さんが警察に保護され、引き取ってくれる人を誰にするか、っていうことでお父さんとお母さんの名前が挙がった時のことでした。
その当時、お父さんとお母さんは別居していて、柳美里さんはお父さんが嫌いだったとのことでした。
それでもその時、柳美里さんが選んだのはお父さんでした。
どうしてお父さんを選んだのか?
柳美里さんの答えは正確には覚えているわけではありませんが、おおよそ
お母さんだと
帰りの車の中で、根掘り葉掘り
どうしてこんなことになったのかと
追及されることが分かってた
そして、
お父さんの場合は
あまり聞かずに
家まで送ってくれそうだったから
とのことでした。
お父さんと一緒の車の中は、どちらも話すことはなく、
この車の中での沈黙の時間は柳美里さんにとって、お父さんとの記憶の中でたった一度の甘い時間だった、ということが書かれていました。
この時の車の中で、お父さんは何を考えていたんでしょうね。
離婚に至るまでの自身の悩み苦しみ、そしてそのことで受けてしまった子供(柳美里さん)の悩み苦しみ。
父親としての子供に対しての責任など、いろんなことが頭の中を駆け巡っていたのでしょうか。
言葉では何も言わなくても、気持ちでは柳美里さんのことをそっと見ていたんでしょう。
柳美里さん自身もまた、警察に保護されるに至るまでのことを、いろいろと振り返っていたんじゃないかと思います。
そして、この沈黙の時間が、柳美里さんにとってはとても甘い時間だったようでした。
子供が「お腹が痛い」って言う時、まるで自分のお腹が痛むように必死に心配する女性的な優しさとは対照的に、この沈黙の時間はお父さんの「男の優しさ」に思えました。
もしお母さんが引き取ってたとしたら、柳美里さんの想像どおり
なぜこんなことになったのか?
なぜ相談してくれなかったのか?
みたいに問い詰められて、柳美里さんはまたまた辛い目にあってたかもしれませんね。
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